ーー頬を撫でる夜風。見渡す限りの美しい夜景。瞬きに色づく、微睡みを知らない東京。キラキラと、
見下ろす世界一面人々の光で敷き詰められている様は、まるで天地逆転した星屑のプラネタリウム。
地上の明るさで本来、空にあるべき星々がほとんど見受けられないことからも余計そう思う。
淡い輝きを纏った東京タワーを遠くに一望でき、俗に百万ドルの夜景と勝手に鑑定されてるのも頷けるものだ。
だが、空駆ける少女は其れを意に介さない。
「ーーくっくっく………今日こそ、素晴らしいカオスフィールドを見つけてレッツビギンでございますわ!」
その夜景すらかすむほどの美貌の持ち主は不敵に嗤う。身体を包むメイド服を押し上げる豊満な胸に似つかわしくない、幼い顔。口元から覗くいたずらな八重歯を以てしてもにじみ出る性悪さは隠せない。穏やかなタレ目だがその瞳には邪悪な光が充ち満ちている。
美しきメイド魔法少女が座すクリームパフェを載せたお盆型UFOは主の意思のもと、風を切り裂き疾駆する。
ーーそう、今日も今日とてまじかるメイドこよりちゃんは『地球総ウイルス化計画』遂行に余念はないのだった。その割に全然進んでないけどね。
「うっ、五月蠅いですわね! それもこれも、あの小癪なおポンチ魔法少女がいつもいっつもいいところで邪魔しやがるからですわーーって、ん?」
眼下に広がる住宅街。それに目をとめた彼女は飛行端末に制動を掛けた。彼女が向かった先は、表面上は何の変哲もない一軒家だが、彼女は有象無象の混乱(カオス)の気配を赦しはしない。
「ほほぅ。一見、ごくごく普通の一軒家に見えますがーーなるほどどうして、なかなかのカオス・エネルギー。
くすッ♪ 決めましたわ。今宵の獲物ーー」
ーーメイドウィッチは愉しげに目を細めると、次の瞬間には夜空に融けるように闇に消えた。
まじかるまじかるナースッ♪ こっどぉ〜はドキドキ♪
ちょおしんきがなくってぇむぉお、きこへェるでぇッしょお〜♪
調子っぱずれで舌っ足らずな歌声がTVから響く。
「いやぁ。やっは゜小麦ちゃんっていいなァ。ムギムギ」
木造の床にあぐらをかく男は魔法少女が乱舞する画面を見つめてだらしなくにへらぁ〜ってしてる。
一般的に言われてるアニオタ平均からするとかなりのーーというか普通に美形に入る造形だが、
今の彼はやっぱりその辺のオタと大差ない。親とか見たらきっと泣く。
尤も今の所一人暮らしだからその辺は無問題なんだが、それをいいことに彼の部屋はある意味“極まって”いる。
部屋中、所狭しと置かれた小麦グッズ。棚に大事に飾られた小麦フィギュア。壁という壁を覆いつくさんばかりにぺたぺた貼られた小麦ポスター、
雑誌の切り抜きもお構いなくだ。おまけにスタンバイしているPCに映し出されてるのは某巨大掲示板の『ナースウィッチ(以下略)』スレッドという徹底ぶりだ。
携帯の着信メロディはむろんのこと『愛のメディスン』。今度はシングル『くちびるイノセンス』に換える予定だ。
唯一目を引く、というか違和感を醸し出してるのは黒いギタースタンドに立てかけられたフェンダージャパンの黄色いストラトキャスターとマーシャルアンプその他機材一式だが、
コレも専ら最近小麦ソングにおけるギター・パートをコピーすることにしか使ってなかったりする。
「ーーでも、やっぱりこの曲、リニューアル前の方がいいなぁ。ギターはこっちの方がいいけど。無駄にリズム隊を強調しすぎというかスピード感が無いというか」
何回も見直しているがやっぱり感想は同じだ。
小麦ソングを担当しているギタリストはストラトではなく明らかにレスポールタイプを使っているが同モデルがどうしても手に入らなかったんだそうだ。
ギタリスト自体に拘りはないから別にこのままでもイイらしい。
「でもまぁ、小麦ちゃんの声があるなら別にいいやー」
そんな、もはやどうしようもない部屋の主の名前は渡部秋雄。どこぞの超人気アニメーター兼ゲーム原画家と非常によく似た名前だが、マァ気にするな。
ちなみに好きなアーティストは筋肉少女帯で一番好きな曲は『ボヨヨンロック』だがコレも気にするな。するなよたのむから。
このこいーっを♪ おだいじにっ♪
さぁOPは終わった。これから本編に雪崩れ込むぞー。と、思わずKARTE2.5の特典フィギュアを握る。まさに手に汗握る瞬間。
「はぅあ!! いけないいけない俺の小麦タンになんてことを!! ごめんよ小麦たん痛かったかい? ーーーーーーあんれ?」
画面が消えている。停止ボタンを押してないのにもかかわらずだ。
「んんー? どしたんだろ?」
コントローラーを操作しても全く反応がないので仕方なしにPS2の接続部を点検してみたりするが、何の異常もない。
「むぅ。おかしいな、今までこんなコトは一度たりとも」
流石に焦りの色が隠せなくなってきたーーそのとき。
「ーーーー気に入りませんわね」
「ーーはへ?」
ふとした声に振り向いてみれば。
どーん!!
ってな擬音が聞こえてきそうな勢いで紫の布地に包まれた二つの巨大な物体が視界いっぱいに広がる。
「ーーむ、胸ッッッ!!? ーーじゃあなかった誰!?」
「ふぅんーー貴方が今回のターゲットでございますか」
この服装、そしてこのしゃべり方この声ーーーー秋雄はイヤな予感がしつつも顔を上げる。
見覚えのあるセミロングのロリーフェイス(モニターの中で)に見覚えのあるタヌキ耳と見せかけて実はモモンガ耳(モニターの中で)、そして見覚えのある左肩のだっこちゃん人形みたいなタヌキ(モニターの中で)。
「……ま、さか。嘘だろ………ーーーーま、ままままま、まじかる、メイドーー?」
「ーーーーーーーーーーふん」
対するまじかるメイドこよりは不機嫌そうに彼を見下ろし鼻を鳴らしただけだった。いや、実際そうなんだけど。
ごしごし。と彼は取りあえず眼を擦った。
「は、はは。まさか、ね。昨日からぶっ続けで二十四時間ラジオの再放送聴いてて一睡もしてないからな……」
それならちょっとした幻覚見ても可笑しくはないーー?
が、幻像は薄れていくどころかますますその輪郭を際だたせていく。
あれーー可笑しいなーーーーー?
「全く、素晴らしい混沌のうねりを感知してきてみればーーーーコレは一体全体どー言うことでございますのッッ!? ええ!! ーーーーあ、あら?」
仁王立ちし、わざわざ手を広げまじかるメイドは聞いてませんわ!! っと一気にまくし立てるが、彼はおもむろに立ち上がると傍らのベッドへと腰掛け、
「寝よっと」
寝っ転がって睡眠体勢万全だ。
「むぐぐ…………こ、こらぁ! ちょっと! わたくしを無視するなんて赦しませんコトよ! 放置プレイ、ダメ、ゼッタイでございますですわよッ!」
「ふうー。幻覚の次は幻聴か、なんかやたらはっきりと見えたり聞こえるしだいぶ身体が参ってるなこりゃあ。でも、どーせなら小麦タンを拝みたかったよ……お休み、小麦たん」
と、隣の小麦ちゃん等身大抱き枕をぎゅっと抱きしめ、布団にくるまると彼の意識は本格的に夢現へーーーーー入らなかった。
ーーーーーーーーバッ!
「くぉのぉッッ! 起きなさいよ!!」
勢いよく布団が、まるでエロゲー主人公を起こしにやってきた幼なじみよろしく引っぱがされる。
「んん……? な、なーーーんだ、もぅ朝か……? オレには毎朝起こしてくれる幼なじみなんて居なかったはずだけど」
「ぼ、ホ゛ケ倒すのもいい加減になさいませッッ!! それにだーれーが幻覚ですか誰が!! ったく失礼しちゃいますわっとにっ!
にしても、よくもまぁ、此処までアレもコレも……!」
布団を放り投げ腕を組み、呆れたように改めて辺りを見回すまじかるメイド。
あらゆる棚に飾られた、華のコスプレアイドル・中原小麦のフィギュアにブロマイド。 とにかく、四方八方、小麦づくし。
「むむむッ!? 出ましたわねおぽんちナースッ! どうしてここに!? ーーってコレ等身大ポップだし!!」
『いまだぁ! 主役ゲットー!! ずざー』
な、何なんだ、この人は………?
確かに幻覚にしてははっきり見えすぎたり、色々と不審な点がある。それ以前にこよりのことなんぞさっぱり眼中にない自分が彼女の幻覚など見るだろうか?
でないならどっかのコスプレねーちゃんが何故か自分の部屋にやってきたということになるが、そっちの方がどう考えても不自然だ。第一、コスプレというには余りにもーーー。
「あ、あの、あなた、一体……」
「あぁッ! やっぱり!」
「ど、どどどどーしたんです!?」
こよりはマジカルてのDVD手にして向き直る。右はKARTE1、左はKARTE2だ。
「なんでKARTE1の初回版だけ買ってわたくしの超らぶりぃ初回限定こよりちゃんフィギュア付きのKARTE2を買わないんですの!?」
1の方は例のまじかるナース姿の小麦ちゃんがプリントされたでっかい箱入りで2は通常版だ。棚にはちゃんと下着姿の小麦たんフィギュアが飾られている。ちなみに次のKARTE2.5も初回版手に入れたのは言うまでもない。ついでにKARTE3も。
『小一時間問いつめたい……』
「小一時間問いつめたいですわ!」
憤懣やるかたないって感じだ。
「そんなこと言われても。オレが買いに行った時はもう売り切れてたし」
「ならば! どぉしてかけずり回ってでも初回版を買いに行かないんですの!? 秋葉とかに逝けばまだ売ってるところは結構ありましてよ?
あなた、それでもファンですの!?」
『アキハバラ標準仕様ー』
「いや。つーかね。こよりフィギュアなんて別にいらねぇし」
頭をぽりぽりかきながら視線を逸らして言う。
「ぬ、ぬわぁぁぁぁんですってぇッッ!? きぃ〜〜ッ!!
あの貧乳魔法少女のグッズだけ集めてどうして私のは一個たりともございませんのよ!?
不公平ですわ不公平!! 差別反対断固抗議いたしますですわッ!! レッツ・ボイコットでございます!!」
新しい口癖誕生の瞬間だ。
「いや、『一個たりとも』ってっ、だいたいアンタのグッズなんてほとんど無いじゃないっすか。それこそあのできの悪いフィギャーぐらいしか」
「ーーーー!!」
ぴたっと硬直するこより。核心をつかれたようだ。
「そうですわ、そうですわ、嗚呼……何故、どうしてーー?」
と膝を着き天を仰ぎ現実に打ちひしがれる少女を華麗にスルーして青年は更に続ける。
「それにオレ小麦ファンだし。つーか大きな少年むぎむぎ団の」
『小麦ちゃんですが、何か?』
ーーくっ! ど、どうしていつも貴女ばっかり………!!
こよりはキッ! と涙目でそれを睨み据え、
「ーーええい! さっきからやかましいですわ!! 黙らっしゃいませ!!」
「へッ!? な、何するだァーッ!! か、買ったばっかの新型パソが!! つーか角二(むろん半角小麦スレ)で拾ったエロ画像がッ!!!
ま、まだバックアップ取ってなかったのにッ!!」
小麦ボイスで我に返ったこよりの一喝で彼のWinXPは火花を立て沈黙した。
マジカルて鑑賞の際少しでも気分を盛り上げるために起動しておいた小麦ちゃんデスクトップマスコットのランダムトークが癪に障ったようだ。
思わず拳固めて怒りを露わにする。
他の貴重なデータはあらかた予備のノート型に移していたが今日拾ったコラおよび様々なエロ画像は未だデスクトップのHDDの中だった。
「そんなの、萌○.jpやらどっか適当なとこで後で勝手に拾えばいいじゃないですか!?
だいたいですね、この私の前で小麦ファンを名乗ることなんて言語道断、横断歩道でございますですわよ!! ったく、わたくしのマスコットは一言たりともしゃべりませんのにどうして小麦のばっかり、しかもメイドの私じゃなくて国分寺の方の……ぶつぶつ」
「“そんなの”? エロ画像のことか……エロ画像のことかあぁぁぁぁァァァッッ!!」
我を忘れた秋雄は、思わず目の前のメイド魔法少女に掴みかかる。彼にとっては新型デスクトップよりもエロ画像の方が大事だったらしい。
「シャラァップ!! でございますわッッ!!」
胸を反らした瞬間、目が妖しく光ったかと思うと、蒼白い雷光が彼を捕らえた。
「ぐわわぁッッ!?」
「ふんーーーかよわい女の子に掴みかかるなんて、殿方のやることじゃあなくってよ?」
「こ……コレの何処がか弱い女の子なのかと小一時間………」
ぷすぷすと、その場で焦げ倒れた秋雄は呟く。
「あら、何かお言いになりまして?」
因みにお台場の時のようにウイルスは仕込んでない。当初はそれで十分だったが、少し、気が変わった。
その前に……このわたくしのミリョクでーーーー。
「い、いやぁ何でもございませんですはい」
聞こえないように呟いたつもりだったが、流石はタヌキ耳。地獄耳でやんの。モモンガだっけ?
どっちでもいいやーーとつれづれ思いながら秋雄は何とか立ち上がる。
「ーーはッ! ち、ちょっと待てオレ、何をこの人がホンモノみたいなこと思い始めてるんだ?
コレは、そう、夢だ、夢に違いないそうにきまってるーーーー」
そうだ。現実的に、その前にこんなことはあり得ない。あの電撃だって、そう、トリックだ、トリック。ベストを尽くせ、オレ。何故、ベストを尽くさない?
そのベストの尽くし方が決まる決まらないで葛藤してる間も、彼女はむふ〜♪ と意味深な笑いを浮かべ。
「そうですわねー♪ 今からこの私、まじかるメイドこよりに乗り換えるなら赦してやらんでもないですわよ〜っ」
「WHY!? な、何でそうなりますか!? それにナニを赦すのか意味不明だし」
ホンモノなら思った通りの性格だったがコレはコレで問題だ。
なまじ自分の知るとおりの彼女だったことがことさらに問題なのだ。
「ほら、どうですのよ? 早く返事なさいませ」
言ってこよりはしなを作る。勿論自慢の胸を強調してだ。
「いや、だからですね」
「ねぇ、悪い話ではないでしょう?」
上半身をかがめ、右手を太股に、左手を腰にやり、さらに谷間を強調するポーズ。
コレはグラビアなんかでもお馴染みのアレだ。
「その、あのですね」
「ほらほらぁ♪ どうですのーこの胸、この腰ーーこの太股
……あんなちんちくりん貧乳コスプレ娘とは大違いでしょー? ねぇ? 解ったら、早く私の僕にーーーー」
秋雄を置いてけぼりに様々などきどき挑発ポーズを取りまくるこより。
なるほど、噂以上の美貌だ。大きさも形も申し分ない、ロリーな童顔と不釣り合いな見事なまでの巨乳、
そしてそれを支える美しいくびれを魅せる腰、時折スカートから覗くライト・パープルのショーツに包まれた丸い尻に白い太股、そしてふさふさ獣耳と尻尾に胸元の大きく開いたメイド服という、ある種のフェチズムを満たしまくった出で立ちは見る人が見れば確かに夢中にならざるを得ないが、彼の返答は筋金入りだった。
「いや。どーでもいいし」
「んな゛ッッ!! そ、それはどーいう意味ですのよ!!?」
全く以て想定外な答えにさしものこよりも取り乱す。
「意味もなにも、そのままだし。第一ですねぇ、小麦ちゃんの場合、あの度を超した貧乳っぷりがいいんじゃあないですか〜ッ!
素人はすっこんでろって感じですよええ。ったく、解ってないなぁ。もう十七なのにあんなんだから激萌えなんですよ貧乳じゃない小麦ちゃんなんてよけいなパワーをつけてダメになったスーパーサ○ヤ人2のト○ンクスと一緒ですよあのまな板バディだからこそあんなにスク水が似合うんじゃあないですかっっ!
余談ですけど小麦ちゃんほどスクール水着が似合うキャラもそうそういないですよねーホントもう最高のロリえろっぷりで(以下延々と小麦絶賛が続くため省略)
ーーーーーーつーかこよりさん元々あんまり好きじゃないっつーかむしろアウトオブ眼中って感じーー」
ーーーーがッ!!
秋雄の肩口をつかむこよりの形相は、それはもう凄いことになっていたので
半ばトランス状態になった秋雄の意識が現実に引き戻された
「……それはさすがに聞き捨てなりませんわね、この美少女メイドたる私のどこがいたらないと言うんですの!?
一体全体どこがあのつるぺたぼんくらナースに劣ると言うんでございますの!?」
彼女の迫力は先ほど以上だったが小麦への思いによるモノか、今度は呑まれずに済んだようだった。しばらく思案した後、彼はぽつりと
「だってほら、えろタヌキだし」
「だから、エロって何なのよエロって!? そーれーに私はモモンガでございますッッ!!
この耳も! この尻尾も! 見てお解りになりませんの!? ほらほら!」
言ってどうやら自前らしい耳をぴくぴくさせたり尻尾をふりふりしたりするが、
「それにですねー、」
ーーって無視かよ!! とこよりはそのまま硬直する。
「あの小麦ちゃんのライバルって言うからどんな奇抜なキャラかと思ったら至ってフツーだしメイドのクセに全然メイドっぽくないし、声なんて某チ○ッパーや○ッシュと同じだし、レッツビギンって口癖パクリだし、二重人格って設定全然活かされてないし無意味にエロいしフツー主人公のライバルといったらだいたいそのときの主人公より一段階強いはずなのにべらぼーに弱いし、カルテ3の自爆なんてどー考えてもあり得ない(以下略)ーーーーーー」
ーーーグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサッッッ!!!
「……あ………ぐ………ッ!!」
質の悪いオタ特有の、自分にとって興味を引かないキャラはとことん怜悧に貶めるモード全開だ。
普段の彼はとても温厚、というか気弱で消極的な、見た目以外は殆どその辺のオタと変わらない人物といえるが、徹底した貧乳好きである彼にとってマジカルメイドは全くどーでもイイ存在だった。
こうした極端な性質を持っていたからこそ、彼女に見いだされるほどのカオスを内包しているのだとも言える。
竜○乱舞や鳳○脚を遙かに上回る毒舌乱舞が容赦なくこよりに炸裂し、鋭利な刃物のような一言一言が彼女を抉る
ーーーーが、真に彼女を震撼させたのは次の一言。
「ーーーオレ巨乳嫌いだし。だいたい貧乳の小麦ちゃんの敵が巨乳なんて安直にも程がーー」
ーーーーーーーーーブチン。
まじかるメイドの中で何かが切れた。決定的な何かが。
「ふっ。うふふふふふふふふふふふふふ………」
目を伏せ、肩を戦慄かせる。その急な変化に秋雄は我に返るが、其れは寧ろこれからだと言うことを思い知る。
「乳がでかいこと以外はまるっきり某プリサミのピ○シィ・ミサの丸パクリーーーこ、こよりさん?」
「ーーーおーっほっほっほ!!!」
「おわぁッ!」
こよりはなんかイッちゃった高笑いと共に秋雄をベッドに押し倒し、
「ち、ちょッッ!! ちょっとナニをーーーうぐぅッ!?」
ーーーーーズッキュウゥゥゥゥゥン!!
抗議の声を上げようとする唇をこよりの形の良い唇が塞ぐ。
んっ…ぐッ! や、柔らかいッッ!! ってそうじゃなくて! わ、な何だこッー口の中にーーーーー
続いて、口内にこよりの舌が飛び込んでくる。
「ーーんん、ふぅっん……! はァッ、くっ! ふぁ、んむ……んンーー!」
唾液をたっぷりまぶした舌が口内を縦横無尽に駆けめぐる。そのたびにこよりの顔が揺り動かされ、濡れそぼった朱唇は秋雄のそれを濡らしていくように這い回る。
直接快楽に結びつくような行為ではないのに、とろけるような気怠さが、次第に彼の身体をとらえていく。
鈍い痺れが唇と淫靡に動き回る舌から、波紋のように身体全体へ広がる。
「はぅ……ん、ふくっ! んっ、むぁ、く、ぁうーーはぅん、くちゅ、くちゅーーんう、ン…! んん……んーっ」
な…なんだろコレーーな、何だってこんなにーーうぁあ!?
こよりの舌が彼の舌をとらえ、絡みつくようにうねり、這う。
慌てて離そうとするも彼の舌の動く方に合わせて蛇のように執拗にまとわりついてくる。暫くは其れの繰り返しだったがいつしか、互いの粘膜をこすりつけるように絡み合い、もつれていく。
ならばと顔を離そうとするが、両頬をがっちりと捕まれているためそれも適わないのだった。
そうでなくとももはや満足に、
ダメ……だ、ち、力がーーーーーーー!
出ない。
「うぅん! ふぅ、ぁあ、れろれろ……くぁ、ぅぅん、ぅあふーーんむっはァ……ふふふ♪ あんっんんーーっ!」
……嗤、った……?
半ば朦朧とする意識の中、秋雄はそれだけを何故か確信できた。それよりもーー。
先ほどからのむしゃぶりつくようなディープキス、そのたびに執拗に、ねっとりと絡みつく舌をうねらせる繰り返しの中で、彼は着実に何かを吸い取られていくのが感じられたーーーが、其れと反比例して下腹部の滾りが異常になっていくのもまた、確かだった。
…んな、俺ーーは、小麦ちゃん、一筋………ーー。
「ーーくすくす♪ はんっんん♪ ぅん、んちゅ……ンん、んはッ、れりゅ、ぁん、あむ、んあ……ッ」
そんな彼の葛藤を知って知らずか、僅かに口元が離れ糸引く合間に彼女は不敵に、妖しく、嗤う。
そしてまた、溺れるような熱い接吻を交わす。時に吸い付くように、小鳥が餌をついばむように、互いの粘膜が接触していく。
ーー彼がそうなってしまったのは未だに彼が童貞ーーーーどころか女性と満足に付き合ったことすらないのと、鼻孔を甘くくすぐる香水と女の匂い、そして胸に押しつけられているやったらむにゅむにゅした感触と無関係ではないだろう。
ちょっと目線を下にやれば、互いの身体に挟まれぐしゃりと潰れる、はち切れそうな乳房が見て取れる。
真っ白な谷間の深い溝までばっちりだ。その切れ込みが、顔の動きにつられる上体の揺れでむぎゅっと押しつけられ形を歪ませていく。
何故だか、それから目を離せないでいるとーーーー。
「んふふぅ♪ ……んむ、んっ、はむぅ、んむぁっ、ちゅむ、ふぁう、あぁ、はくっ、ぅちゅ、はむ、ぁう、はっ、くちゅ、くちぅ、んはぁ……あぅんーーー!」
ーーちゅぽんっっ!
「ーーぷはぁっっ♪ はぁッ、はぁッーー! も…もぉ、貴方ってば、結構お上手ですのねっ♪ もしかしてこーいうの、結構手慣れてらっしゃるのかしら? ふふふーー」
吸盤が取れたような音を立ててこよりは唇を離し、人差し指で軽く拭った。その仕草も何か意図的なモノを感じさせて止まない。
「くすっ。まぁ、んなこたぁどっちでもいいですわーーーーそれより、もね」
「ーーぜェ…ぜェ……な、なンでこんなコト、をーーーーー」
上体を起こし、荒い息の中で秋雄は問うが彼女はさらに質問で応えた。
「あなた。さっき私の胸をバカにしましたわよねぇ?」
「い、いや、別にこよりさん、のがどーこーってよりは俺は大きな胸そのものがーー」
「でもーーその割にいま私の胸をずっと凝視なさってましたわよねぇ?
ふふふ、キスの最中に目を逸らすなんて、失礼なんじゃあなくって?」
再び彼に顔を近づけ、こよりは勝ち誇ったように言う。
「そ、其れとは話が別ってゆーか、」
「あ〜ら、まーだそゆこと言うんですのォ? もぉ無理しちゃって♪ 本当は私の胸、好きなんじゃないの?
あーんな貧乳ぱーぷー娘なんかのよりよーっぽとハァハァしてるんじゃあなくって?」
「だーかーら〜! 頼むから人の話を聴いてくださいよっ、そういう問題じゃあないんですってば!
それに俺は小麦ちゃんの貧乳が一番だって一体何度言えば」
この反応も予想済みだ。くすっ♪ とこよりは笑い、
「じゃあ、何だって貴方のココ、こーんなに固くしちゃってるのかしらぁ♪」
べろん、といつのまに脱がされたのか、開いたチャックの隙間から熱く勃起したペニスがこよりの手で解放される。
「!! ーーい、いつのまに!?」
「あ……あら、結構大きいんですのね……?」
流石にコレは予想外だったのか、手にしたモノに思わずこよりは目をまん丸くする。
ーーーー今し方『注入』したウイルスのせいというわけでは無さそうですわね
……この私としたことが思わず、
「ウホッ!」
って叫んじゃいそうでしたわ。
まぁ確かにその巨根は某A氏を想起させずには居られないモノだったのだが。
「でもーーまぁ」
直ぐに元の余裕が引き戻される。そしてその場で跪き。
ーーちゅッ♪
おもむろに亀頭にキスをし、ふふ♪ と笑いくわえ込む。
「ーー!?」
いきなり行われた衝撃的な行為に秋雄は声を詰まらせるが、こよりはお構いなしにそのまま顔を上下させる。
ーーーーじゅっぽじゅっぽと露骨に卑猥な音を立てさせ、こよりの唇は何度も何度も肉棒を往復する。
その間も竿を撫でる人差し指と親指の微妙な動きを休ませることはない。
「ーーんふ……ぅむっ、ん、はふ、ちゅむ、れろ、ぁむん、はぁッ、れりゅれりゅぅ、む、んッ、はぅあーーお、おおきい、ですわよ……コレ、はぁっ!
口の中いっぱいに広がって、そ、それ、にィ、すごく、んちゅ、うぅんーー! かたくて、あぁ、あつ、い、のーーーー! はぁむ、ぅんンーー!」
こよりの口元からは声とも吐息とも衝かないモノが断続的に漏れ、淫靡な言葉が飛び出す。
口内で良く唾液がまぶされたからか、ストロークの合間に覗く竿は赤黒くてらてらしている。
「うぁ……うーーくぁ…………ッ!?」
コレまでにない直接的な刺激がやせ我慢という名のダムを決壊させようと必死だ。
怒張を嬲る張り付くような唇と、唾液を乗せた舌の暖かさは、口づけ合ったときのあの柔らかさは錯覚じゃなかったことをイヤでも思い知らされる。
「くッ……! そ……ーー」
勿論このまま好き勝手させるわけにはいかない。腰を引いてえろメイドのフェラチオから逃れようとするーーも。
な………!? か、身体が、動か、な………ーー!?
股間からもたらされる快感の調べによるものかーーと一瞬過ぎったがどうもそうではないらしい。
“動け”と念じてもその命令が身体に行き渡ってない感じだ。操り糸が途中でプッツンと切られたような、そんな感覚。
「ーーんちゅっ、んんっ…むぅ、ぅあ、ん、ふぁ、はむぅーーーぷはぁッ、貴方のココ、びくびくって震えて……キモちいいのね。あン、もっと、もっと舐めてあげますわーー」
肉帽からおもむろに唇を離し、こよりは意味深にウインクしたかと思うと、再びフェラに没頭していく。
より唇をすぼませつつ口に含んだ肉茎を舌で転がしたかと思うと次の瞬間にはアイスキャンデーのように舐め回しゆったりと出したり頬張ったりを繰り返す。
「はぁむ、うちゅっ、ぅぁん、ふぅ、にちゅ、んぁんっ、あむぁーーこれ
、くちのなかでっ、どんどんおっきくなって、どくどく脈打って、はぁっ、ぅん、素敵ーーぁむぁ、わた、しの唾液で、ぬらぬらってしてますわ、よ
ーーあぁむ、んぁ、ちゅぷ、はぷっ」
「ちょ……ちょっ待っ……も、やめ…」
身体が動かない以上、出来ることと言えば悲痛な声を上げることだけ。
そうこうしている間も、少しずつ、また着実に追いつめられていく。
「んふふーーふぉんはひひやふぁら、ふぉーひひぇはははふぉふぉはへはへんへふ?」
肉帽を頬がへこむほど頬張らせたまま喋るモンだから、こよりがナニ言ってるか解らない。
「な、何ーー? よく、聞こえな……うっ、く……!」
「あむぅっ、んちゅ…んんっ……んはっ、はぁふ、ちゅ、ん、んん!
ーーんじゅっ!じゅむっ、はむぅっ、くち、くちゅくちゅぅ、ぅん、あはぁ♪ お○んちんおいし…い…ぅぁ、ああ、んく、んむ、ふぁっんーー!」
ーーーぢゅっ、ぢゅむ、ぢゅっぽ、んじゅッ! ぢゅにゅーーーーー
またピストン運動。しかし今度はさらにスピードが増しており、いつにもまして容赦がない。
いつになく熱烈な口戯に秋雄は思わず腰を浮かし目を白黒させる。
「ーーこ、こより、さん……!? も、も、やめ……!!そ、そんな吸っちゃ、だ、駄目ーーだッーー!?」
「んじゅっ! はむっんん! ちう、はぅ、ん、ちゅむ、んはッ、はふ、んくっーーぷはっっ!
ーーはぁっ、はぁっ、はぁっーー!」
薄桃色の唇で吸い立てられ、舌で亀頭から竿まで余さず舐め立てられるというダブルコンボで急激に追いつめられ、境地に達する直前ーーまさに一歩手前で怒張は唇から解放され、こよりは荒い息をつく。
「えッッ!? あッ………」
今の秋雄の表情は呆気にとられたという表現がよく似合う。
「はぁッ、はぁッ、はぁッ……ふふ♪ そんなにいやだったら、どうして身体を退かさないんです?」
一連の行為で口調にこそ乱れはあるものの、彼を見つめる眼差しは未だ妖しく陶然しており、衰えるどころかその彩(いろ)を増している。
「そッーー! それ、は……ーー!」
「ひょっとしてーーちゃんと、最後までシて欲しかった、からーーーーとか?」
「ーーーー!!」
彼の目が大きく見開かれた。
ち、違うーーそれは断じて違うーーーーはずなのに。それなのに。いやーー。
「そのままわたくしのおくちにぜ〜んぶ射精して、飲んで欲しかったとか?
このわたくしのおくちにたっくさんの真っ白なせーえきどっぴゅどぴゅ流し込みたかったとか?
まーさかそんなんじゃあありませんよね〜♪ 小麦のファンがわたしなんかに、そんなこと、ねぇ?」
ご丁寧に自分の口元を指さし、ニヤニヤした上目遣いでこよりは問いかける。実際、もう問いかけですらないようだが。
うっすら濡れた朱唇が言葉を紡ぐ様を見て鼓動が高まるのが押さえきれない。内容が内容だけに、どうしても意識してしまう。
眼前のメイドはウイルスによる人心掌握だけでなく、こうした誘導尋問にも長けているようだった。
「ーーまぁ正解は、さっきのキスの時ーー貴方があんまりにも情熱的に舌を絡めて求めてきてくださるモノですから、わたくし思わずウイルス伝染しちゃったからなんですけどねー♪ もぉ、わたくしってばホントうっかりさんですわっ!」
てへっ♪ っ照れ笑い。
わざとだ!! 絶対わざとだ!!
と秋雄は直感するが今更遅い。
「いや、これはむしろ好都合かもしれませんわね……だぁって貴方、さっきこの私がホンモノなのかって疑ってたでしょ〜?
だから、あなたはまだ大好きな大好きな小麦たんを裏切ったことにはなりませんでございますわよぉ♪ 良かったですわね♪ くすくす」
やっぱり地獄耳だ。疑いを晴らすには直接、思い知らせるのが一番ってコトか。モモンガ耳は伊達じゃない。
「…………………」
秋雄は答えられない。ああ、どうせそんなところだとは思いましたよ、とでも逝っておけば一応の面目は保てただろうに。
その勝ち気な笑みはコレを見通していたからなのだろうか。どうもさっきから自分の心が見透かされっぱなしではある。
だいたい、ウイルスの所為なのかどうかは判らないがホンモノだとしても、何でもアリの邪道アニメだしこんなこともあるか、と楽観的に済ませてしまってるのも困りものだ。
ああ、そういえば次のネタはアニメの世界に入ったりするんだっけなー、ってことはマジカルてはアニメじゃないのか?
その昔、アニメじゃない、アニメじゃない現実なのさ、と歌った曲があったが大人は誰も笑いながら、テレビの見過ぎというけど僕は絶対に、絶対に嘘なんか言ってないっつーか嘘だと思いたい気分だ。
「これがホントの粘膜感染、な〜んちゃって♪ でございますわーーあらあら、どうしたんですの? その顔。ぽかーんとしちゃって♪
ふふーーどちらにせよもはや、貴方の身体はこの私の思うがまま、操られるがまま。あんぐらー様の『地球総ウイルス化計画』の礎となるのですわ………ーーーーと、いいたいところですが、」
言葉を切り、まじかるメイドはそのまま彼の股の間に身を乗り出す。
重力に従いぶら下がったようになる乳房の深い谷間に丁度屹立が押しつけられる体勢だ。
「貴方の場合、これだけではすましませんわよ〜、くすっ♪」
続いて上半身を上げ、胸元に手を掛ける。空いた手は依然肉棒を握ったまま、瞳に昏い光を湛え熱っぽく言うこより。
「後悔させてあげますわ。私よりまじかるナースを選んだことを、ね。くっくっくーーこれからこの私の魅力をじぃっくりと教えこんで、其れこそウイルス無しでも従うように、萌え萌え〜の虜にしてあげますコトよ」
「あ、あの……こよりさん目が怖いんですが、すんごく」
「ふふふふふ♪ と、ゆーわけで次はぁ、“ココ”で萌えさせてあげるーー!」