「お前、あれだっけ?憎んでたんだっけ?…いや、憎んでなかったんだっけか?」
 久しぶりに会った哀川さんは、突然そんなことを言いだした。
「…は?何をですか?」
「ほら、葵井巫女子って名前のさ…」
「巫女子ちゃん…ですか?」
 葵井巫女子、それはぼくが今年の春の終わり頃に出会った女の子の名前だった。ぼくのために人を殺し、
僕のせいで自分を殺した…。
「どちらでも大差ありませんよ。もう彼女は死んでるんですから。死んだ人間に愛情を抱くのはまだしも、
憎しみを抱くなんて無駄でしかないでしょう」

「ああ、まあ、確かにその通りだ。死んだ人間を恨んでもしかたないよな?確かにそうだ。
だが、問題が一つある」
 哀川さんは指を一本立て、まるで生徒に回答を促す教師の様に言った。
「何です?」
 ぼくの問いに、哀川潤は、ゆっくりと、答えた。

 葵井巫女子は生きている
            」


「いっくんお帰りーっ!」
「………………やあ」
「なんかねっ!今日道ばた歩いてたら、赤い女の人が来て『自宅には帰らない方がいい』って言われ
ちゃったんだよっ!」
 …そりゃそうだ。巫女子ちゃんの家はもう無いんだし。

「うん、知ってる。て言うかその赤い女の人から聞いた」
 ぼくが告げると、巫女子ちゃんはおおげさに驚いてみせた。
「わわっ!?すごいねっ!まさかとか思ったけど、いっくん、あんなかっこいい女の人とも知り合いなんだ!
《スーパーカップアイスクリーム、ただし中身はハーゲンダッツ》みたいなっ!」
 嬉しそうに笑う巫女子ちゃん。
 何だろう?何なのだろう?ぼくは罰を受けているのだろうか?それにしたってこれはあまりにも理不尽だ。
どうやら巫女子ちゃんには殺人の記憶も、自殺の記憶も無いようだ。

 だとしたら、ぼくは全てを知っていて、その上で何も知らない巫女子ちゃんといなければならない訳だ。
事態が解決するまでは…。
 解決なんてあるのかは分からないけれど…。
「どうしたの?いっくん?」
 葵井巫女子が、小首を傾げてぼくの顔をのぞき込む。
 ああ、きみはここにいるはずじゃないんだよ。きみがいるのはおかしいんだ。きみは殺人者なのに。
なぜそんなに平静でいられるんだよ。おかしい。変だ。妙だ。異常だ。狂ってる。
だからぼくは──
「いっくん?」

──そんな『現実』壊してやる──

「い、いっくん?」
 ぼくは葵井巫女子の右手の手首をつかみ、床に押し倒した。
「ど、どうしたのいっくん!?巫女子ちゃんが押し倒したいほど可愛いのは分かるけどっ!」
 葵井巫女子は困惑した恐怖の、それでいて少し嬉しそうな表情でぼくを見上げた。
「……黙れよ」
「い、いっ…くん?」
 葵井巫女子の顔から喜びの表情が消えていくのが分かる。
 誰だったかな?人にとって一番辛いのは好きな人が変わる事だって言ったのは。
 でもぼくに責任は無い。きみが勝手に勘違いしていただけの話だ。
 残念賞。

「や、やめてっ!」
 ぼくは葵井巫女子の言葉を無視して、その白い首筋に舌を這わせた。頸動脈の鼓動が分かる。そこに、そっと犬歯を触れさせる。
「や…こ、怖いよ…いっくん…」
 舌は首筋から鎖骨へ…手で服を破りながら進んでいく。
 きみの手を押さえていた手はもう放しているんだ。逃げればいいだろ?抵抗してみろよ。
「や…あ…」
 葵井巫女子は抵抗しない。
 ぼくはシンプルなデザインのブラジャーを押し上げた。
 小ぶりな胸が、不安気に上下に揺れている。
「は、恥ずかしい…よ…いっくん…」

 ぼくは胸にかぶせるように手を置き、ゆっくりと愛撫し始めた。
「ん…んぅ…」
 葵井巫女子の口から、切なげな吐息が漏れる。
「へえ…ずいぶんと敏感なんだね。普通はそんなに感じるものじゃないと思っていたけど」
「ち、違うよっ!」葵井巫女子は、慌てた様子で言った。「感じてる訳じゃ…ひゃっ!?」
 葵井巫女子の桜色の乳頭をつまみあげる。
 分かってないなあ…。ぼくは馴れ合うつもりは無いんだ。
「あっ!?…やっ…やあ!?そ、それっ…やめてっ!!」
 乳首を摘む度に、葵井巫女子の体が面白いほど跳ねる。

「こんなに反応するなんて…どうせ毎日オナニーでもしてるんだろ?
まったく…最低だよね」
「ひ、ひどいよっ!あたしそんなこと…っ…あっ…ぅ…」
 乳首をコリコリと摘んでやる。
「週何回してる?」
「んっ…な、何?」
「週に何回しているのか、と聞いてるんだよ。その最低な行為をさ」
「……しっ…して…ない…よ…っ!?ああああっ!?痛っ!?痛いっ!?」
 人間の体はよく伸びる。
「一日二回だよっ!朝と夜!」
「一日二回…やっぱり淫乱じゃないか」
「…ひっく…ひどい…ひどいよ…」

「ひどい?ひどいだって?…じゃあ確かめてみようじゃないか」
 ぼくはそう言って、葵井巫女子の下腹部に手を進めた。
「あ…」
 くちゅ…
 静かな部屋に粘液質の音が響く。
「ち、違うの!いっくん!」
「何が違うのさ」
 縦スジにそって、中指でなぞる。
「あっ…や…んっ…」
「くちゅくちゅ言ってるよ。これで証明されたじゃないか。巫女子ちゃんは最低な淫乱の変態だって」
「違うよっ!違う、違うっ!」
「違わない」
「違うよっ!いっくんのいじわる!」

「違わない」
「ちが…うっ…!?」
「どうしたの?反論しないの?」
「だ、だっ…て…いっくんの…指がっ…」
 ぼくの中指はほとんど根本まで、葵井巫女子に飲み込まれている。
「反論しないって事は認めるって事だよね?」
「み、みとめ…んぅっ!?ダメっ…動かさないで…やっ…ぁぁ…」
「ま、こんなにぐちょぐちょにしてたら認めたようなものだけどね」
「くぅ…んっ…や、いっくんの…指が…中でっ…動いてる…っ…あっ…」
 指をかぎ型に曲げて、ひっかくようにこする。
「あっ…あ…ダメっ!?もうダメだよっ!!」

「うんっ…んっ…んぅ…い、いっくんの…いっくんの指が…っ!!」
 葵井巫女子の体が小さく跳ね続ける。
「あっ…いっくん…んんんっ!!」

 考えてみれば、このアパートは壁が薄い訳で。
 それなのに誰も止めに入らなかったという事は。みんなが公認していたという事。
 どうやら、ぼくの部屋は巫女子ちゃんを監禁する場所と位置づけされていたらしく、巫女子ちゃんは
みんなにいじめられることになるのだけど。
 それはまた別の話。
 どこか軸がずれてしまった、歪んだ世界の物語。